大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和38年(ワ)7610号 判決 1965年8月31日

原告 星野節子

右訴訟代理人弁護士 鈴木喜三郎

被告 有賀正実

右訴訟代理人弁護士 民永清海

主文

(一)  被告は原告に対し金三六万二、三五九円およびこれに対する昭和三七年一二月一日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告のその余の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(四)  この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告において金一〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一(当事者双方の申立)

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金三七万七、九八四円およびこれに対する昭和三七年一二月一日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二(原告の請求原因)

(一)  原告は昭和三七年九月八日被告から、被告有所に係る別紙目録記載の店舗(以下、本件店舗という)を、喫茶バー経営の目的で、期間四年賃料一ヵ月金一万五、〇〇〇円、毎月末日限り翌月分を前納のこと、敷金一〇万円、権利金三〇万円の約定で賃借した。

(二)  しかして原告は右約旨に従い、被告に対し敷金一〇万円、権利金三〇万円、並びに同年九月分以降一一月分までの賃料四万五、〇〇〇円を支払い、本件店舗において喫茶バーを経営して来た。

≪以下事実省略≫

理由

(一)、(争のない事実)

原告主張の請求原因中、(一)および(二)の事実は当事者間に争がない。

(二)、(原告主張の合意解除、および権利金、敷金返還の約定の成否について)

前記当事者間に争のない事実と、≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち、

(イ)  原告は昭和三七年九月八日被告から本件店舗を賃借して以来、友人の大場幸子と共に同所で喫茶バーを経営していたところ、同月中頃、監督のため来店した警察官から、右喫茶バーについては風俗営業の許可を受けるべき旨厳重注意されたこと、そこで原告は同年一〇月初旬頃、友人の竹内恵子および被告の妻有賀百合子の協力を得て、右許可申請に必要な書類を整え、これを所轄代々木警察署へ提出したところ、同警察署において、原告は、先ず右許可を得る前提として、渋谷区役所建築課から、本件店舗が構造上、風俗営業の経営に支障がない旨の意見書を貰って来るよう教えられたこと、よって同月中、原告は渋谷区役所に対し右意見書の下付願を提出したところ、やがて渋谷区役所建築課の係員が本件店舗に来て調査したが、その結果、本件店舗はその一部分が不法に道路上に突出しているとのことで、右突出部分を撤去是正しない限り、同区役所においては意見書を下付し難い旨申し渡しがあったこと、

(ロ)  原告は同年一一月二二日夕方、大場幸子、竹内恵子と共に被告を訪ね、被告に対し右経緯を説明したうえ、本件店舗の前記、突出部分の撤去是正方を懇請したが、双方の間において、右撤去に要する費用約五万円を原被告のいずれの側が負担するかについて話合がつかず、折衝を重ねた末、結局同日夜、原被告は本件店舗の賃貸借契約を合意によって解除し、かつ被告は原告に対し、本件敷金および権利金を返還する旨約定するに至ったこと、尤も被告が原告に返還すべき敷金および権利金の額については別段合意はなされなかったこと、

(ハ)  原告は翌日休業し、その翌日たる同月二四日本件店舗を被告に明渡したこと、

以上のとおり認めることができる。尤も≪証拠省略≫によるも、原告および大場幸子は本件店舗で前記喫茶バーを経営中、深夜喧騒にわたる所為等があったため近隣から苦情が起り、またしばしば警察官から注意警告を受けた事実があったことが認められるけれども、前顕各証拠と対照すれば、右事実だけでは、未だこれをもって、被告主張のように、原告は一方的に本件賃借権を放棄したものであると解し、前段判示のような合意解除および敷金権利金返還の約定が成立した旨の認定を妨げる資料とするに足りない。

≪証拠判断省略≫

(三)、(被告が返還を約した敷金および権利金の範囲)

本件賃貸借の合意解除にあたり、被告は原告に対し敷金および権利金の返還を約したが、その額については別段合意がなかったことは前認定のとおりである。よってその額の点について検討する。

(1)  元来、敷金は、賃貸借終了の際、賃借人に債務不履行のない限り、全額返還すべき筋合のものであり、しかも本件において、右合意解除の際、原告の側に債務不履行のあったような事実については、なんら主張立証がないから、本件において、前記の如く被告が返還を約した敷金の額は、当初原告が差入れておいた敷金一〇万円の金額であると認めるのが相当である。

(2)  次に権利金については、≪証拠省略≫および弁論の全趣旨によれば、本件権利金は、原告として本件店舗を造作および営業権付の侭、喫茶バーとして四年間使用させるために授受されたものであることが推認できる。しかして右事実と、本件合意解除並びに権利金返還の約定がなされるに至った経緯その他さきに認定した一切の事情を勘案するときは、本件のように原告が賃借後、既に約二ヵ月半現実に右店舗を利用したのちになされた前記権利金返還の約定は、他に別段の事情の認められない限り、当事者の合理的意思としては、右権利金を賃借期間たる四年間を基礎として按分し、残存期間に対応する金額の返還を約した趣旨であったと解するのが、条理上相当であると認める。しかして本件権利金三〇万円中残存期間たる三年九ヵ月半に対応する部分は、計算上、二八万四、三七五円となるから、結局被告は前記権利金返還の約定により、原告に対し右金額を支払うべき義務を負担するに至ったものというべきである。

(四)、(相殺の抗弁について)

さきに認定したとおり(前記(二)の(ロ)(ハ)参照)、本件賃貸借は昭和三七年一一月二二日当事者の合意により解除され、同月二四日本件店舗は明渡ずみであるから、被告主張の同年一二月分の賃料債権は初めから発生しなかったものというべきである。それ故右一二月分の賃料債権が発生したことを前提とする被告の相殺の抗弁は採用できない。

(五)、(結論)

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告に対し主文第一項記載の金額の支払を求める限度において正当というべきである。(前記(二)の事実認定の資料に供した証拠によれば、被告は本件敷金および権利金を、本件店舗の明渡後、遅滞なく返還することを約した趣旨であることが推認できるから、右明渡後である昭和三七年一二月一日以降の遅延損害金の支払を求める請求も正当というべきである)。

よって原告の本訴請求を右限度において認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき民訴八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 土井王明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例